ZARD35周年の熱気と丹沢登山ラッシュ——「名水の街」小田急・渋沢駅周辺でいま何が起きているのか
渋沢 駅の改札を抜けると、ふっと耳をかすめるメロディがある。小田急小田原線のホームで毎日鳴り響くのは、90年代のJ-POPを代表するZARDの名曲『負けないで』と『揺れる想い』の駅メロディだ。2026年、ZARDデビュー35周年のメモリアルイヤーを迎えた神奈川県秦野市。その南西の拠点たるこの場所は、いまや音楽ファンの巡礼地としてだけでなく、都心近郊の空前のネイチャーブームを象徴するスポットとして異彩を放っている。
土曜日の早朝、色とりどりのバックパックを背負ったハイカー群に交じり、カメラを手にホームのスピーカーを見上げる若者たちの姿が目立つ。新宿から急行でわずか1時間余りという立地もあり、ここ渋沢 駅の乗降客数はコロナ禍以降の本格的なアウトドア回帰と相まって、前年比でも目覚ましい伸びを見せている。なぜいま、この街と駅がこれほどまでに人を引きつけてやまないのか。現地の熱気と構造変化を追った。
ZARD35周年のメモリアルイヤー:駅メロディが紡ぐ「聖地」の記憶

ボーカルの坂井泉水氏がゆかりを持つ秦野市。その玄関口である駅ホームに楽曲アレンジが導入されたのは2014年のことだ。上りホームには『揺れる想い』、下りホームには『負けないで』が流れ、列車のドアが閉まる瞬間の日常風景に、独特のエモーショナルな彩りを添えている。
35周年を迎えた2026年、駅前商店街や地元の有志団体は「ZARDメモリアルウォーク」などの展示イベントやオリジナル限定グッズの展開を拡大した。ファンの熱量は冷めるどころか、当時を知らない20代や海外からのJ-POP愛好家にまで波及している。駅近くの喫茶店店主は「週末になると台湾や香港からのお客さんもふらりと立ち寄って、駅メロディの動画を見せてくれるんです」と嬉しそうに語る。
丹沢山地への最前線:鍋割山「うどん登山」からトレランまで空前のブーム

渋沢駅が持つもう一つの圧倒的な顔、それは「表丹沢へのゲートウェイ」としての機能だ。ここからバスで15分ほどの「大倉」バスターミナルは、塔ノ岳や鍋割山、丹沢山へと続く一大登山口。特に、鍋割山頂の山荘で提供される名物「鍋焼きうどん」を目指して登る山ガールやファミリー層の熱気は、2026年の今も衰えを知らない。
近年ではトレイルランニング(トレラン)競技者の増加や、夜間のライトアップ登山の人気も加わり、駅前のバス乗り場には早朝5時台から長い列ができる。登山用品のレンタルショップや、早朝営業を開始したコンビニ・ベーカリーなど、駅周辺は登山客のニーズに合わせた商業機能のアップデートを着々と進めてきた。
「名水百選」誇る環境の恵み:秦野の湧水文化と地産グルメの進化

秦野市といえば、環境省の「名水百選」選抜総選挙で全国第1位(美味しい水部門)を獲得した実績を持つ、日本有数の盆地湧水地帯だ。丹沢山地に降った雨が数十年の歳月をかけて地下で磨かれ、市内各所から清冽な湧水となって吹き出している。
この極上の水を生かしたローカルグルメが、渋沢駅周辺で独自の進化を遂げている。伝統的な秦野そばや、地元産の落花生(ピーナッツ)を使った創作スイーツ、さらには湧水で仕込むクラフトビール醸造所まで登場した。駅から徒歩圏内にある湧水スポット「弘法の清水」周辺では、マイボトルを手に水を汲む観光客の姿が日常の風景となっている。
2026年、駅周辺再開発とスマートモビリティの導入で劇的変化
駅自体の利便性も、ここ数年で飛躍的な向上を見せた。秦野市が主導する表丹沢魅力づくり構想の一環として、渋沢駅北口・南口の広場整備が進み、アクセス性が格段に改善されている。
2026年現在、駅前からは大倉地区や周辺温泉街を結ぶ電動キックボードやシェア型E-bike(電動アシスト自転車)のポートが本格稼働。バスの運行本数が限られる時間帯でも、来訪者がストレスなく観光スポットや登山口へと移動できる二次交通のインフラが整った。「公共交通+スマートモビリティ」の融合モデルとして、他自治体からの視察も相次いでいる。
移住者・ワーケーション層の急増:都市近郊で実現する理想のデュアルライフ
変化は観光面だけにとどまらない。リモートワークの定着と週休3日制などを導入する企業の増加に伴い、「都心まで1時間で通える自然豊かな拠点」として、渋沢駅エリアを選ぶ30〜40代の子育て世代やフリーランスが急増している。
駅周辺の不動産相場は都内に比べてリーズナブルでありながら、少し足を延ばせば圧倒的な山並みと広い空が広がる。駅前にはコワーキングスペースや多目的レンタルオフィスがオープンし、平日はPCに向かい、週末は丹沢の山を駆け巡るという「デュアルライフ(二拠点生活・職住近接)」を楽しむ人々が、新しいコミュニティを形成しつつある。
ローカル線の未来像:地域密着型インバウンド誘致と持続可能な観光モデル
小田急電鉄と地元自治体、そして地域住民が一体となった取り組みは、日本のローカル駅における一つの成功モデルになりつつある。単なる「通過駅」から「滞在型・体験型の拠点」への脱皮だ。
過度な混雑やマナー悪化を招くオーバーツーリズムを回避するため、登山道の保全活動へのデジタルトレイルガイドの活用や、環境保全寄付金付きのフリーパスの発行など、持続可能な観光の仕組みづくりが加速している。ZARDのメロディに背中を押され、山へ、街へ、そして新しい暮らしへと踏み出す人々。渋沢駅が放つ独特のエネルギーは、2026年の今日も多くの人を惹きつけて離さない。 (出典: 渋沢 駅(Yahoo!ニュース))